伝説の正体を見てしまいました

    たうら  たまつ
    田浦 太松


【 第T章 】 謎の閃光と給食パン

【 第T章 −1】 全ての発端は犬ころの好奇心だったのかもね

 河村君が休んだ。
 確かに珍しいには違いないけどさ。それがすべての始まりだったとはね、あたしは思ってもみなかった。

 だってそん時のあたしは小学校年生だよ。たかだか 10 才なのよ。そうよ、洟ったらしの餓鬼ん子だったわよ。悪かったね。

 今になって思い返せばさぁ、ああそうかって気付くこともあるけどね、ダメダメ、当時はぜーんせん周り見えてなかったし。

 どう考えても子供時代のあたし達ってさ、ただ面白そうな匂いだけを嗅ぎ廻っている犬ころみたいなものだったよ、恐らく。

 そうよ犬ころはね、今嗅いでる匂いが全てなの。さっき何を嗅いだかはもう忘れている。これからどんな匂いを体験できるか考えようともしない。今の一瞬、目の前の匂い、その刹那を本能的に判断するのでせい一杯なのね。

 いいえ自分はそうじゃありませんでした、みたいな顔であなた、この本を読んでいるんじゃないよね。ええ?そうなの、オムツが外れてまだ何年も経ってないってのに、いっちょ前に分別も洞察力もあったと言うの。冗談は欠席届を出してからにしてよね。

 よくさ、飼い犬に見つめられると心の中まで見透かされそう、あたしの胸の痛みを分かってくれるのは、ポチあなただけよ、なんて馬っ鹿なことをのたまう輩もいるけどさ、絶対にあり得ないって。

 「この飼い主やろう、いつまで待たせるつもりだ。さっさと餌を喰わさんかい。」
 考えてるのはこんなところだって。ひょっとしてあなた、自分の飼い犬を心理学者だと思ってるんじゃないよね。

 

 まあどうでも良いけどさ、あたしがいた佐世保市の小学校での話だけどね。今でもやっているのかなぁ、その頃は誰かが欠席するとね、近くの人が給食のパンを持ってくことになってたの。パンだけよ紙の袋に入れて。だっておかずは持って行けないでしょう。当たり前なこと言わせないでよ。

 え、タッパウェアになら入れて行ける。そんなでかい荷物、わざわざランドセルのボタンも留められないほど、膨らまして帰る人間がいるわけないわよ。
 帰り道で近所の小母さんに「こんにちわ」ってお辞儀をした途端に、頭の後ろからランドセルの中身を全部ぶちまける羽目になっちゃうからさ。

 え、そんなこたあどっちでも良い、話を前に進めろ。はい済みません。別にね、先生から言われてやっている雰囲気でもなかったのよ。自分から手を挙げて、お帰りの会が終わると、
 「じゃ、俺が確実に届けるから。」
 なんて凛々しい顔で下校する男子もいたから。あれってもろに責任感に酔いしれてたのね。

 そうかと思うと渋々って態度で、それが義務なら行くけどさなんて、照れて演技していたんだと思うよ、そんなヤツもいたっけ。

 まだ 10 年かそこらの人生経験しかない筈なのに、もう人それぞれだったよ。それを見ている分には楽しいものだった。そう、見てる分にはね。

 だってあたしん家は折橋町って言って、学校からは少々山道を登っていたからね。近所にはクラスの子もいなかったし、まあ最下位を争ってる試合の外野席に座った観客のようなものよ。たいして義務にも責任にも縁はなかったからさ。

 だけどこの時ばかりはそうも言ってられない気がした。不思議な虫の知らせって言うかさ、誰でも大きな事件に巻き込まれる直前って、こんな胸騒ぎがするのかしら。イヤな予感がしてたことは今でも覚えているのよね。

 

 「おい、ソラっぺしかおらんけんな。持って行けよ。」
 それもよりによってあのマサルが言ったんだよ、パン袋を突き出して命令口調で。だからなおさらカチンさね。

 その通りよ、あたしは断じて嫌いだったわ。この松岡マサルって男子。
 要するにお調子もんでデリカシーが全くなくてぇ、なのに学級委員長やりたがってるって誰かが言ってたから。あ、何人いるのか知らないけれど、全国の松岡まさるさんご免なさいね。

 そりゃ休み時間におどけて踊ったりすれば、みんなは囃し立てるでしょうよ。だからと言って、それで自分は人気もんのつもりかい。委員長選挙に投票してもらえると当て込んでいるのかい。とんでもございま専用電話。

 「あたしはイヤよ。あんたこの前、澄ちゃんを泣かせたでしょう。」
 「何ば言いよるとか。関係なかろうもん。あれは泣く方がどうかしとる。」
 なんて口答えするからさ、あいつ。こっちだってつい喧嘩腰になっちまうでしょう。

 「澄ちゃんはね、お父さんが入院している病院へ行くため回数券を持ってたのよ。それをさぁ取り上げるなんて最低。」
 自分ではそんなに声張り上げた記憶はないの。しょうがないのよ生まれつきだから。あたしの声ってさ、友達に言わせると
キロ先からでも聞こえるくらい太いんだって。
 その事でお母さんに文句言ったこともあったね。でも 「あたしゃおまえをフルートみたいな声に生んだつもりだけどね。」 ってすっとぼけていやがったけど。

 その壊れたフルートが教室中に響いたんでしょうね、真っ先に反応したのが浦川弓子だった。
 教室の後ろから
 「あーそれ、ゆみ子も知ってるぅ。澄ちゃん、病院に行けないって泣いてたもん。」
 と証言してくれたわけよ。
 するとクラスのみんながこっちを見た。

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